容器包装向け素材のRedesigning ─「できること」から始める─

今回は、容器包装における「素材のRedesigning」という視点から、紙の役割を考えてみました。

今年もサステナブル・ブランド国際会議※1に参加した。
テーマは「Redesigning THE GOOD LIFE:“グッド・ライフ”実現に向けての再構築」で、サステナビリティやSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)を軸に世界から集まったスピーカーが意見を展開。オープニングはmore treesの坂本龍一代表※2からのビデオメッセージ。化石資源由来の社会課題に対し、「資源を使うということは資源がタテに競合しているということ。今の地球は先人から受け継いだものではない。将来の子孫たちから預かっているものだ」という趣旨のメッセージがあった。世界的にサステナブルなパッケージが模索されているが、「素材のRedesigning」というのは哲学も含めた重要な考え方なのだと感じる。日本でも素材のRedesigningについて言及している重要な答申がある。

日本製紙の「シールドプラス」体験コーナー

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2019年3月26日に中央環境審議会が答申した「プラスチック資源循環戦略の在り方について〜プラスチック資源循環戦略(案)〜」。その中で容器包装素材のRedesigningに係る話として紙に関する記載が3か所あり、そこから紙への役割期待を読み取ることができる。

(1)まず、基本原則−3R + Renewable(持続可能な資源)−には、『(前略)より持続可能性が高まることを前提に、プラスチック製容器包装・製品の原料を再生材や再生可能資源(紙、バイオマスプラスチック等)に適切に切り替えた上で(中略)使用後は、効果的・効率的なリサイクルシステムを通じて、持続可能な形で、徹底的に分別回収し、循環利用(リサイクルによる再生利用、それが技術的経済的な観点等から難しい場合には熱回収によるエネルギー利用を含め)を図ります。(後略)』と書かれている。紙への役割期待は、「再生可能資源に置き換えることでプラスチックのリデュースに貢献しつつ化石資源を未来の子孫に温存する」、「リサイクル性を考慮する」、「最終手段で熱回収した場合でもカーボンニュートラルによりCO2を新たに増やさない」こととまとめられる。

(2)次に、重点戦略では、プラスチック資源循環のリデュース等の徹底の項目に、『(前略)代替可能性が見込まれるワンウェイの容器包装・製品等については、技術開発等を通じて、その機能性を保持・向上した再生材や、紙、バイオマスプラスチック等の再生可能資源への適切な代替を促進します。(後略)』とある。用途によっては紙だったら何でもいいわけではない。容器包装に使われていくために「紙だからいい」に加え、「紙なのにいい」という従来の紙には無かった機能を付与する技術開発が求められている。

(3)最後は、重点戦略の海洋プラスチック対策の項目で『(前略)海で分解される素材(紙、海洋生分解性プラスチック等)の開発・利用を進めます(後略)』。使用後の容器包装は、使用者の善悪や意図に関わらずリサイクルの輪を逸脱することがある。紙の持つ生分解性が期待されるところだが、国際基準に則った土壌、海洋など第三者機関の試験により科学的に説明することが必要と認識する。

【容器包装素材のRedesigningにつながる「紙」の役割期待 まとめ】

1紙の持つ特徴を活用

「再生可能資源への置換えによる化石資源の温存」=プラスチックのリデュース。タテに(未来の子孫と)資源の競合をしない。
「カーボンニュートラル」=やむなく焼却する場合でもCO2を新たに増やさない。
「生分解性」=資源循環の輪を逸脱した場合、生分解性が期待される(条件次第、要科学的説明)。

2より持続可能となるための技術獲得

「リサイクル性を考慮」=モノマテリアル機能紙開発。イージーセパレーション※3。ラミネート加工で貼り付けられたフィルム・食品残渣・匂い付着古紙の資源循環。
「用途に応じた機能付与」=必要技術の開発。抄紙段階での付与とコンバーティングによる付与の合理的選択。
「科学的説明」=国際基準に準拠した第三者機関による試験。実証試験。

現在、プラスチック資源循環の流れで容器・包装分野に紙素材の使用が検討されているケースは大きく2つ。
1つは以前紙だったものが1周回って紙に戻る「回帰」。ショッピングバッグやテイクアウト袋、瓶や缶のスリーブなどをプラスチック製から紙製に戻す。これらは紙の価値を見直すケースであり、森林認証等を求められるケースがあるが既存品質のままで直ちに使える。
もう1つは「進取」。プラスチックしか選択肢がなかったパッケージの領域にイノベーション性ある新機軸の紙を活用していく取り組み。「できることからやる」スタンスでPDCAを回し、できることを順次進化させていくチャレンジの連続※4

容器包装素材のRedesigningについては、紙を使って「できることからやる」というスタンスを採用している企業が多いように見える。例を2件紹介したい。

アスクルカタログ2019年春夏号。表紙に「脱プラスチックへできることから。」とあり、表2と対向ページ見開きでも「環境のために、一歩ずつ。」という見出しで関連商品を掲載していた。サステナブルを見据えて活動していく同社の姿勢が伝わってくる。

もうひとつは冒頭で紹介したmore treesのWEBサイトから『いま世界は、気候変動や生物多様性の危機など、森林の減少がその一因と言えるさまざまな問題を抱えています。状況は深刻で、解決はおろか、改善も容易ではありません。それでも、目の前にあるできることから取り組むという姿勢を、私たちは大切にします。現実を見つめつつ、森を育む仲間とともに少しでも前向きな活動をしていきたいと考えています。』という素敵な一節を皆さんと共有したい。

わたしたちも紙製パッケージへのRedesigningで、未来の子孫から預かった地球を豊かにしてお返しすべく、できることから始め進化させていく姿勢で貢献していきたい。

パッケージング・コミュニケーションセンター長 金子 知生

※1 サステナブル・ブランド国際会議2019東京:株式会社博展とSustainable Life Media, Inc.(本社:米国・サンフランシスコ)の共催で、サステナブル・ブランドをめぐるセッション、ワークショップ、ネットワーキング企画などが開催されました。環境省やNPOが後援しています。

※2 一般社団法人more trees:「都市と森をつなぐ」をキーワードにさまざまな取り組みを行う森林保全団体。坂本龍一代表は、音楽家のあの坂本教授です。

※3 イージーセパレーション:前号コラム「海外の気になるパッケージ 欧州のスーパーマーケットに、日本の将来を垣間見た瞬間 ─Easy Separationという考え方─」をご参照ください。

※4 進取のチャレンジ例:筆者の部門でマーケティングを担当する紙製バリア素材「シールドプラス」シリーズは、「できることからやる」スタンスで取り組んでいます。共感いただいたイノベーター精神に溢れるブランドオーナー、コンバーター、機械メーカー、流通などのいろいろな企業と協同で取り組みを進めている最中です。本コラム掲載日まで少なくとも3件の商品化がされていると思います。