海外の気になるパッケージ
欧州のスーパーマーケットに、日本の将来を垣間見た瞬間
─Easy Separationという考え方─

今回は、2017年の北欧出張で見つけた気になるパッケージをご紹介します。それは、使用後の分別が簡単な食品包装です。

2017年5月、世界最大級の包装展示会Interpack2017(デュッセルドルフ)を視察した際、乗り換え地のヘルシンキと隣国の首都ストックホルムでパッケージ&デザインハンティングを行った。理由は2016年のレゴランド、2019年のムーミンバレーパークの開設で注目される北欧のライフスタイル、デザイントレンドの確認。
また、「超ソロ社会、スウェーデンのレディミール」いうレポート※1を拝見し、単独世帯率が47%で世界一のスウェーデンではチルドレディミール※2が普及しているという情報に接したこと。同レポートには日本の単独世帯率が32%※3との記載もあったことで、日本が向かうパッケージの未来がここで垣間見えるのではと妄想したためである。

現地では複数のスーパーマーケット※4を視察。

写真(1)

写真(1)
店舗:Coop、製品分類:チルド・RTH製品、形状:プラスチックトレー+トップシール+紙スリーブ中央部

写真(1)は、チルドRTH※2。マイクロ波殺菌をして密封するシステムを開発したMicVac社(スウェーデン)製の充填製品でタテ陳列されていた。温めれば食べられるだけあって、内容物そのものにシズル感がある。紙スリーブが部分使いで装てんされ、盛り付けのイメージを印刷で演出。

写真(2)

写真(2)
店舗:Willys、製品分類:チルド・RTC製品、形状:プラスチックトレー+トップシール+全面紙スリーブ

写真(2)は、チルドRTC※2。調理前のパテのような中間製品では、プラスチックパッケージの全面を紙製スリーブで覆い隠し、調理後のイメージ写真印刷でシズル感を伝えるというパッケージ手法が主流。

写真(3)

写真(3)
店舗:S-market、製品分類:ミール・ソリューション製品群、備考:上中段はタテ陳列、最下段は段積み

写真(3)は、大型売り場のミール・ソリューション※2関連製品群。10mほどのチルドケースがRTH、RTC、RTP※2等の関連製品で埋め尽くされていた。
チルドは冷凍と比較し温め時間が短いという利点もある。交友関係が狭まり、行動半径も狭くなりがちな高齢者の単独世帯において、家にいながらレンジで手軽にレストランの味を楽しめるRTHを始めとしたミール・ソリューション文化は、近い将来の日本で普及が拡大してもおかしくないと感じた。

紙屋の視点で振り返ると、ミール・ソリューション製品に共通の特徴は紙スリーブの装てんで、およそ7割方の製品に使用されていたように見受けられた。情報伝達以外の紙スリーブの効果は、タテ陳列しても倒れにくいこと。欧州の売り場の多くが上段から中段はパッケージの上面が正面に見えるタテ陳列を採用。紙スリーブが作り出す平らな面が、きれいに直立することを可能とする。
また、最下段は段積みとなるため、紙スリーブによる接面拡大で安定効果も期待できる。また、工業食品以外にも総菜パン、調理パン等のパッケージでプラスチックと紙がうまく役割分担されている例が見受けられた。

写真(4)

写真(4)
店舗:S-market、製品分類:チルドRTH、形状:プラスチックフィルム+紙器スリーブ

写真(4)のハンバーガーは、プラスチックで内容物の変性を防ぎ、紙で情報とデザインを提示、形態を保持かつレンジ後の耐熱性のある食器としてユーザビリティ機能まで提供している。プラスチックと紙が複合化されていないため、生活者が使用後に、それぞれ簡単に分別することができる。

現在、パッケージ構成においては使用後のリサイクルを考慮して、「マルチマテリアルからモノマテリアルへ」という考え方がトレンドである。それに加えて、プラスチックと紙、それぞれのモノマテリアル同士を組み合わせて使用後は簡単に分別できる「Easy Separation」※5という方向性を日本でも目指してみてはどうだろう。プラスチックと紙が上手に共生できる未来は、便利で人に役立つサステナブルな未来なのではないだろうか。

【追記】
欧州の店舗ではパッケージの上面を見せるタテ陳列のディスプレイが圧倒的に多いです。パリでノートルダム大聖堂を訪れた際に、そのステンドグラスの美しさに驚くと同時にスーパーのタテ陳列を思い起こしました。敬愛し見慣れた原風景のようなものが生活の場面に根付いているのでは、と思うのは職業病でしょうか。

Monoprix(パリ)

店舗:Monoprix(パリ)、製品分類:チルドRTC

ノートルダム大聖堂内のステンドグラス

ノートルダム大聖堂内のステンドグラス

パッケージング・コミュニケーションセンター長 金子 知生

※1 レポート情報:サイト名foodbiz.asia 道畑富美代表が書かれた世界の食文化に関するレポートが充実。とても楽しくためになるレポートで、本稿執筆時点で198件掲載されています。

※2 ミール・ソリューションに関する表記:月城流通研究所WEBサイトの「ミール・ソリューション4つの解決策」を参考に、RTH=Ready To Heat(温めれば食べられる状態)、RTC=Ready To Cook(調理の下ごしらえがされている状態)、RTP=Ready To Prepare(調理のために食材が用意されている状態)を使い分け、頭にチルドと付記しています。文中にありませんが、もう一つはRTE=Ready To Eat(そのまま食べられる状態)で、例えば、お寿司やおにぎり、ひじきといったところでしょうか。

※3 日本の単独世帯率:年度はもちろん、統計主体や学者、推計手法によって、色々なデータがあるようです。みずほ情報総研の藤森克彦主席研究員の「「単身急増社会」を考える」には、2015年の日本の単身世帯率は全人口の14.5%という記載があります。

※4 視察店舗:ストックホルムはCoop、Willys、Ica、Hemcopのスーパー4社と百貨店のNK、ヘルシンキではAlepa、K-supermarket、S-marketのスーパー3社。

※5 Easy Separation(イージーセパレーション):筆者の提案であり、包装用語には存在しません。