CLOMAアクションプラン
─プラスチック代替素材としての紙・セルロース系素材の普及に向けた取り組み─

CLOMAワーキンググループ(WG)5は、プラスチック素材を木質バイオマスである紙・セルロース系素材で代替し、プラスチック使用量の削減に貢献することを目的としている。
WG5は他のWGと異なり、グループ内で3つのサブテーマ「紙・セルロース素材及びプラスチック複合素材の普及」、「未利用の紙系廃棄物、複合素材廃棄物のリサイクル」、「紙・セルロース素材の生分解性評価」を持ち、活動範囲は多岐に亘っている。

本稿では、紙・セルロース系素材の高機能化によりプラスチックの性能に近づきつつある現状と、その普及に向けた各サブテーマの課題と取り組みについて紹介する。

はじめに

増え続ける海洋プラスチックごみは地球規模の課題であり、この解決のために集まったCLOMAは、プラスチック製品のリデュース、リユース、リサイクル(3R)と代替素材の開発・導入を推進する使命を負う。昨年発表したCLOMA VISIONでは海洋プラスチックごみの問題解決とSDGsの同時達成を宣言し、その実現のための具体策として5つのKey actionを示し、各キーアクションを担当するワーキンググループ(WG)の活動を開始した※1

CLOMA キーアクションプラン

  • Key action 1:プラスチック使用量削減

  • Key action 2:マテリアルリサイクル率の向上

  • Key action 3:ケミカルリサイクル技術の開発・社会実装

  • Key action 4:生分解性プラスチックの開発・利用

  • Key action 5:紙・セルロース素材の開発・利用

WG5が目標に掲げる紙・セルロース系素材の開発・普及は、最も身近なバイオマス資源である紙・セルロースを高機能化し、使い易い形で提供することによって、プラスチックの代替素材としての有用性を広め、ワンウェイのプラスチック製容器包装の排出抑制に貢献する活動である。
これは、国が進めるプラスチック資源循環戦略において、プラスチック資源循環におけるリデュースの徹底および海洋プラスチック対策に示された代替イノベーションの推進に合致した取り組みである※2

WG5は、現在、37社・団体が参加しており、3つのサブテーマの下に活動を開始している(図1)。

図1:Key action実行ワーキンググループ5の取り組みテーマ

図1:Key action実行ワーキンググループ5の取り組みテーマ

高機能化する紙・セルロース系素材

紙・セルロース系素材の特徴

木質バイオマスを原料とする紙・セルロース系素材は、燃焼させても大気中の二酸化炭素を増加させず(カーボンニュートラル)、管理された森林によって再生産可能で※3、且つ、微生物等により分解される(生分解性)ため環境影響の小さい素材である。また、紙においては古紙の流通網が発達しており、回収から再製品化までのリサイクル工程が完成されている(リサイクラブル)。

このような特徴は、気候の安定化、資源循環、廃棄物発生防止に貢献し、SDGsが求める持続可能なより良い世界で使われる資材に相応しいものの一つであると考える。

紙・セルロース素材の機能化

容器包装に必要な機能は、内容物の品質保持機能、情報伝達機能、輸送効率、ユーザビリティなどが挙げられる。
容器包装において、紙は製品の二次包装としての化粧箱や、段ボールに代表される輸送包装資材としての使われ方が一般的である。
ワンウェイで利用されるプラスチック製容器包装は、食品、飲料、医薬品や日用品などに用いられることから、その目的に応じて、強度、保温性、計量性、耐水性、耐熱性、易包装性など様々な性能が要求される。

内容物の品質保持の観点から、酸素・水蒸気・炭酸ガス等の各種ガスに対するバリア性は重要な性能の一つである。食品の包装容器内に酸素が侵入すると、食品の酸化劣化や変色・退色の原因となったり、好気性菌の増殖や黴の発生を促進させたりする恐れがある。また、水蒸気に関しては、乾燥食品や医薬品などが流通過程で吸湿すると、油脂・ビタミン・色素などの酸化、分解、褐変を伴う固結・硬化が進行、逆に多水分食品では、乾燥による減量や食感の変化などが生じる可能性がある※4

最近、これらの課題に対して製紙メーカー各社では、紙への高速水系塗工技術を応用して、紙表面に均一に特殊コーティング剤を塗布することによって、酸素や水蒸気、香気を透さない高機能紙の開発に成功した※4,5。紙は、セルロースから成る繊維を交絡させてシート状に成形したものである。このため紙には微細な空隙や空孔が多数存在し、これらの存在によって酸素や水蒸気などのガスが透過しやすい性質を持つ。特殊なコーティング層でこの空隙や空孔を適切に埋め、紙表面を完全に被覆し、表面を平滑にすることで紙に新たな機能であるガスバリア性を発現させている(図2、図3)。

図2:バリア紙表面の走査型電子顕微鏡写真

図2:バリア紙表面の走査型電子顕微鏡写真(左:塗工前、右:塗工後)

図3:バリア紙“SHIELDPLUS”の透過度イメージ

図3:バリア紙”SHIELDPLUS”の透過度イメージ

同じく、紙への塗工技術を応用して紙にヒートシール性を持たせる試みも行われている。これによって紙素材だけで商品パッケージを作製することができるようになり、プラスチックフィルムと同様に包装機械による商品の連続包装が可能になると期待されている※6,7

一方、セルロース素材に転ずると、製造方法の工夫によって、サブミリオーダーの揃った球形が特徴的なマイクロセルロースビーズの量産化に成功している※8。海洋生分解性を有しており、化粧品原料、スクラブ剤、プラスチックやセラミックス等に含まれるマイクロプラスチックビーズの代替素材としての利用が期待される。

また、数十ミクロンの微細なセルロースパウダーを主材として、これに熱可塑性プラスチックを組み合わせたユニークなセルロース-プラスチック複合素材も開発されている。ペレットやシートで供給され、自由に成型可能で容器等への利用が期待される。さらに、複合シートの押出成型時に水蒸気で発泡させることで多孔質構造を形成し、保温性能や緩衝性能を発現させたグレードもあり、発泡ポリスチレン容器への代替や輸送梱包材への応用が期待される※9

これらは、上述した紙・セルロース系素材の生来持つ特徴を維持しつつ、さらに容器包装資材などに求められる性能を付加した素材であるが、機能性プラスチック素材と比較すると未だ不十分な点もあり、大きく普及するまでには至っていない。
そこで、WG5では紙・セルロース系素材が市場に受け入れられ易くするために、様々な切り口で消費者に理解を求めアピールしていく活動を展開していく。

サブテーマ1:紙・セルロース素材及びプラスチック複合素材の普及

前項で述べたような環境面における特徴から、紙・セルロース系素材はプラスチックを代替する素材として期待される。しかし、紙・セルロース系素材は機能に乏しいことから、特殊コーティングや他素材との複合化により高機能化する取り組みが進んでいる。これらの高機能化の加工は、生分解性やリサイクル適性などとトレードオフの関係となるケースが多い。したがって、紙・セルロース系素材をプラスチックと代替するには、「高機能化」と「環境特性」の両立がポイントとなる。そこで、サブテーマⅠでは「紙・セルロース素材及びプラスチック複合素材の普及」に向けて、下記項目を目標として活動を進める。

  1. ワンウェイプラスチックの排出抑制を目的として、代替素材の開発、普及を進める

  2. 素材のリサイクルを始めとする再資源化を想定して開発する

  3. 代替事例をCLOMAの枠組みを利用して共有、発信する

上記 1. 2. に関しては、個別企業の取り組みによるものが大きいと考えられるが、サブテーマⅠでは個々の開発を後押しする取り組みを行う。例えば、国内における紙リサイクルに関しては、容器包装リサイクル法(容リ法)による識別マークがあるものの、“紙マーク”が付与されたものであっても、公益財団法人古紙再生促進センターの定めた「古紙標準品質規格」※10や一般社団法人日本印刷産業連合会の定めた「古紙リサイクル適性ランクリスト」※11で、リサイクルに適さないと記載されているものもあり、WG5サブテーマⅠのメンバーへのアンケートでも「分かりにくい」という意見が見られた。これらの規格・リストが定められた時とは社会環境も変化していることから、リサイクル適性の評価方法および基準をレビューし、必要に応じて整理することも視野に入れて活動を行う。

また、リサイクルを行う際には、分別回収が基本となるが、容リ法により導入された“紙マーク”による分別回収リサイクルは十分に効果を上げていない実態がある※12。このような状況を踏まえ、リサイクル評価方法と共に消費者に解りやすい識別マークの提案も検討していく。

同時に、CLOMAのマッチングプラットフォームの活用も含め、国内外における紙・セルロース素材の開発事例や代替事例の共有や発信を行う。例えば、北村化学産業株式会社の「耐熱バリアPSPトレー」と日本製紙株式会社の紙製バリア素材「シールドプラス」を用いた蓋を組み合わせることで、従来のプラスチック製容器と比較して樹脂使用量を約40%削減できる※13、といった事例がある(図4)。今後、このような事例紹介も含め、CLOMA会員企業が必要とする技術情報の共有を進めていく。

図4:機能紙のプラスチック代替使用例

図4:機能紙のプラスチック代替使用例

サブテーマ2:未利用の紙系廃棄物、複合素材廃棄物のリサイクル

紙は回収率が全消費量の80%を超えており、“リサイクルの優等生”と言われてきた。しかし、これは新聞・雑誌などの印刷用紙と段ボールなどの板紙に依るところが大きく、現在、使用済みの紙製容器包装においては、牛乳カートンを除き、ほとんど再利用されていない。

ワンウェイのプラスチック容器包装から紙・セルロース素材への代替が期待される分野は、食品あるいは飲料分野であろうと考えられる。プラスチック素材に代わり、紙・セルロース素材の利用を推進しても、使用済みの紙製容器類が焼却処分されることは本意ではない。

サブテーマ2では、未利用の紙系廃棄物、複合素材廃棄物のリサイクルを目標に活動を行うが、特に使用済みの食品用紙製容器包装に着目し、そのリサイクルの実現に取り組む。
使用済みの食品用紙製容器がリサイクルされていない要因は、発生段階、回収段階、再生段階、再利用段階でそれぞれに多くの課題があり、それらが絡み合っていることから、その解決策を明示できない点にある(図5)。

図5:使用済み紙製容器のリサイクルフローと課題

図5:使用済み紙製容器のリサイクルフローと課題

使用済みの紙製容器包装を古紙としてリサイクルするためには、衛生上の観点から食品残渣などの汚れのないことが前提となる。

ファストフード店でのコーヒーカップを例に考える。片づける際にはプラスチックごみと燃えるゴミの廃棄区分はあり、紙コップは燃えるゴミ側に廃棄される。ここには、他に食品包装紙やナプキン、ケチャップの容器なども入れられる。分別のために新しく“紙コップ”専用箱を設置できるのか、分別は正しく行われるか。しかも、残渣は付いたままである、消費者が一つずつ洗うのか、集めた後に店舗スタッフが洗うのか、回収業者が洗うのか。一つの店舗で発生する紙コップの量は少ない、毎日効率よく収集できるのか、集積地に害虫や悪臭は発生しないか。
このように、発生・回収段階だけでも具体的な処置を新たに決める必要がある。業種や店舗毎でも事情が異なることが予想され、ケースバイケースでの対応は必要だが、最も重要な点はこのような取り組みが社会に受け容れられるかどうかという点である。

CLOMAには多様な業界、業種から参加している点を活かして、排出者、リサイクル事業者、再利用者で協力し、小規模な実証テストを繰り返す中でPDCAを回して、出来ることから実践し、社会定着できるリサイクルシステム作りを目指す。

サブテーマ3:紙・セルロース素材の生分解性評価

紙・セルロースはバイオマス素材であり、生分解性を有する環境にやさしい素材であるというイメージは、広く一般に受け入れられている。しかしながら、紙・セルロースの生分解性を定量的に評価した記録はほとんどない。
そこで、サブテーマⅢでは紙・セルロース素材の生分解性について標準化を行う。生分解試験条件(試験環境、サンプル調整方法など)の決定と標準データの取得を目標とする。

これによって、紙・セルロースの生分解性の定量評価を行い、紙・セルロースと他素材との複合化による生分解性への影響や生分解性プラスチックなど他の素材と、客観的に比較ができるようにすることで、紙・セルロース系素材の環境への影響を明確にすることを目指す。

おわりに

CLOMAの目標は遠大で、その活動は始まったばかりである。WG5には素材メーカーから加工、商品製造、流通、販売、リサイクルに至るまでサプライチェーンで繋がった仲間が、紙・セルロース系複合素材を普及させ、プラスチックを代替することでプラスチックをリデュースし、海洋に流出するプラスチックごみのゼロ化ならびにサステナブルな社会を実現するために集まった。取り組む課題は山積みで前途多難が予想されるが、産官学の協力を得て、仲間と共に出来ることから着実に取り組み、成果を上げて目標達成に歩を進めていく。

※1 クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス「CLOMAビジョン」

※2 環境省 プラスチック資源循環戦略

※3 内閣府 バイオマス・ニッポン総合戦略

※4 内村元一:“紙製バリア素材の開発と機能性、用途例、今後の展開” Andtech社「紙製容器包装」2020年8月刊行予定
野田貴治:“「紙でできることは紙で。」日本製紙グループのパッケージ戦略と開発事例” 印刷雑誌

※5 王子ホールディングス株式会社 WEBページ
三菱製紙株式会社 WEBページ

※6 内村元一:“紙化動向とヒートシール紙「ラミナ」の開発” 紙パルプ技術タイムス「紙・不織布・フィルム/加工ガイド2021-市場と技術-」 2020年8月刊行予定

※7 大王製紙株式会社 WEBページ

※8 「セルロース利用技術の最先端」 シーエムシー出版 P.132–139(2008)

※9 株式会社 環境経営総合研究所 WEBページ

※10 古紙再生促進センター

※11 日本印刷産業連合会

※12 容器包装3R推進のための自主行動計画2020フォローアップ報告, 3R推進団体連絡会, 2019.12

※13 北村化学産業株式会社 WEBページ