ヒストリーにはストーリーがある
60年売れ続けているパッケージ用紙

“継続は力なり”ということばがありますが、長く続くモノには往々にして良いストーリーがあります。言い換えると、競争に生き残ったストーリーがヒストリーを紡いでいくということになります。紙の世界も栄枯盛衰。多くのブランドが立ち上がりますが、競合ブランドや後継ブランドの出現により短いものでは2年程度で廃番となります。コラム初回の今回、60年の長きに渡りお客さまのご支持をいただいている当社のある長寿ブランドについて取り上げてみます。それは商品を守る紙箱用の紙に起きたイノベーションのストーリーです。

時は、ソ連による世界初の人工衛星打ち上げ成功いわゆるスプートニク・ショックに対抗し、米国が宇宙大国の威信をかけて高性能人工衛星エクスプローラーを送り出した1958年。世界中が星空に注目したこの年、日本では空に向かいそびえたつ高さ世界一の東京タワーが完成。街には後に自動二輪車で世界最多量産機となるスーパーカブが登場。そして食生活の変革をもたらした世界初のインスタント麺であるチキンラーメンが誕生したこの年、紙の世界でもあるイノベーションが花開いた。それは、日本初のコート白ボール※1の誕生である。

当時は、神武景気後のなべ底不況で、国内の企業は一部の業種を除き体力が低下。製紙産業でも需給ギャップが起き価格もダウン※2。デフレに悩むブランドオーナーからは、紙製パッケージについて新たな提案が求められた。しかしながら、紙の主原料の国産木材※3は好調が続く建材需要との取り合いで原木価格が高騰していた。

この時代、高級感のある紙製パッケージは主に2種類。ひとつはアイボリーと呼ばれるバージンパルプ100%の白い原紙にコーティングしたコートアイボリーやコートマニラと呼ばれるもの。もうひとつはチップボールという古紙パルプを積層した紙の上に、別の白い紙(上質紙や上質紙に印刷したもの)を貼り合わせる貼箱というもの。どちらも美粧性に優れるが、前者は前述のようにバージンパルプの素となる木材が高く、後者は工程が多いなど、コストダウンの余地がなかった。

そんな中、従来なかった発想にたどり着いたのが大昭和製紙吉永工場※4のひとりの技術者。高級なパッケージに白いバージンパルプを使うのは、表面だけでなく箱を開いた裏面も白さが求められるため。だから白くコーティングするには白い原紙が当たり前だった時代に、白ボールといわれる表面だけがバージンパルプの白い原紙に白くコーティングすることを発案。表面へのコーティングはうまくできても、表面以外は古紙パルプを積層しているため、箱を開けた時に見える裏面は通称“裏ネズ”と呼ばれる鼠色で高級感が得られない。そこで、その技術者が提案したのが、“裏面の鼠色の上にシックな茶色(ベージュ)をカラーリングする”というもの。

発想の転換的なイノベーションにより、コストダウンをしながら高級感や清潔なイメージを演出することに成功。こうして登場した「JET STAR」※5は、箱の中の大切な商品のブランドイメージを高く保つ意匠性あるパッケージ用紙として高い評価を得た。また、環境面を意識する時代に至ってからは、表面以外で古紙パルプを80%使うこの紙は、リサイクル推進に寄与する資源循環の観点からも多くのブランドオーナーに価値を認められてきた。

昨年、還暦を迎えた「JET STAR」。60年間、幾多の商品を包み守るなか継続的な品質レベル向上に努めてきたが、この“裏茶”は「JET STAR」のブランド・アイデンティティとして、安心の証として継承されている※6。提案した技術者の氏名は記録に残っていないが、ストーリーは大切に語り継がれている。

パッケージング・コミュニケーションセンター長 金子 知生

※1 コート白ボール:原紙の表層にバージンパルプを、中層と裏層は古紙パルプを使った積層構造になっている「白ボール」といわれる品種の表層を、白くコーティングし印刷適性を高めた板紙(いたがみ)。カレーやマーガリン、クッキー、チョコ菓子などの食品や医薬品パッケージなどに使用されている。

※2 なべ底不況下の製紙産業:外貨準備高の不足に起因する金融引き締めにより多くの業種でデフレ不況となった。紙パルプ業界は景気動向の影響を受けなかった新聞用紙以外は需給ギャップが発生し市況価格もダウン。業界に対し、当時の通産省による操業短縮、生産調整などの指導が行われた。

※3 木材原料の高騰:1958年頃の日本は、デフレ不況ながら建設需要は旺盛で国産木材の価格は高騰。工場のあった東海地区では、1951年と比べ3倍以上に値上がりしていた。紙の原料となる木材チップは国産木材中心であったため、紙の製造コストに大きな影響を及ぼした。そこで、段ボール以外の分野に古紙パルプを使いこなす技術が求められ、また、チップ専用船建造による海外からの木材チップ輸入や植林経営など、コスト抵抗力・競争力を高める多様な施策が打ち出されていくきっかけとなった。

※4 大昭和製紙吉永工場:現、日本製紙富士工場(吉永)

※5 「JET STAR」ネーミングの由来:旧大昭和製紙吉永工場(現、日本製紙富士工場)7号機の塗工方式である“エアナイフ”(塗料を塗布する際、強いエアを吹き付けることで余剰な塗料を掻き落とす設備)をジェットエンジンに見立て、当時の流行ワードである“スター”を組み合わせた。エクスプローラーの同期生だが、紙製パッケージ界の星としてトップブランドの座を今なお守っている。

※6 品質改善:昭和62年に50号抄紙機が稼働。剛度、印刷適性、製函性が向上し、品質評価がさらに上昇。その後も古紙パルプ製造設備の改造で裏面の夾雑物が格段に減り、裏茶の美しさが一段と向上した。

月本せいじ氏監修スフィア

月本せいじ氏監修スフィア
ポップアップカード作家の月本せいじ氏とのコラボによる「JET STAR」を使用したポップアップカード。表の白と“裏茶”のコントラストが美しく造形を描く。

「JET STAR」60th記念ティシュー

「JET STAR」60th記念ティシュー
白い方が「JET STAR」をパッケージに使用した60周年記念ティシュー。茶色は、その製作時あえて“裏茶”面を表にしてつくってみたプロトタイプ。

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