アフター・コロナは「バックキャスト」で考える
─サステナブル・ブランド国際会議2020で学んだこと─

SB国際会議2020初日プレナリー ラップアップ風景(当社広報室撮影)

久々にコラム執筆依頼がきました。筆者は今、新型コロナ対策の在宅勤務中で、収束後のアフター・コロナへ向けたパッケージ関連の調査、情報取得、企画書作成が業務の中心です。恐らく多くの方が、アフター・コロナを見据えたブランド戦略を企画・検討されていると思います。アフター・コロナはビフォー・コロナの延長線上にはなく、価値観の大きな変化により途切れた線をどこに結び付けていくのかが肝となりそうです。

そこで、今回は筆者が参加した「サステナブル・ブランド国際会議2020YOKOHAMA※1(以下、SB国際会議)」で見聞したことをご紹介します。ブランドの根幹となる変わらない約束や、変わっていくべきことの両側面が話し合われました。皆さまの考えの整理にお役に立てればと思います。

今年もSB国際会議に参加。時期は2月19日〜20日で、ダイヤモンド・プリンセス号が横浜港に停泊して約2週間。首都圏でヒト-ヒト感染は発生していないものの、会場のパシフィコ横浜では感染予防・拡散防止対策を実施しており、来場者のほとんどがマスク着用という緊迫感の中で開催された。

大ホールの客席風景(「Sustainable Brands 2020 Yokohama Report」より引用)

大ホールの客席風景(「Sustainable Brands 2020 Yokohama Report」より引用)

第4回となる今回のテーマは「Delivering the Good Life:“グッド・ライフ“の実現」。それに向けてブランドが求められることは、冒頭の写真にあるように、

  • マーケティングとイノベーションを両輪にフル回転する

  • 社会の潜在的な需要を喚起し、サステナビリティを牽引する

  • キーワードは、パーパス(社会的意義)、サイエンス・テクノロジー、共創とコラボレーション、そしてそれを伝えるストーリーテリング

と定義され、2日間の各セッションで事例の共有や意見交換がなされた。

色々な話を伺う中で、筆者は「アフター・コロナに繋がる道は『バックキャスト』にある」と感じた。バックキャストとは、簡単に言うと“将来実現したい夢を設定し、そのための手法を考える思考法”。以下、筆者が学んだ内容をいくつかを紹介したい※2,3

米国Sustainable Brands Worldwide社 コーアン・スカジニアCEO

(本会議主催者の一人。基調講演「ブランドが消費者の行動を変えるための3つの約束」 公開資料より引用)

Redefining the Field

  • ブランドとは、ロゴマークのことではない

  • ブランドとは、あなた方自身であり、行動であり、どうしていくのかを世界に語り掛けていくもの

  • サステナビリティとは、この世代と将来の世代をサポートする人類と自然界の再接続

  • サステナブル・ブランドとは、利益を超えたパーパスで運営し、その影響力を活用することを繰り返す。そして真にポジティブな製品とサービスを提供し、持続可能な未来に繋がる協調と管理がなされること

サステナブルなブランドをこのように再定義した上で、人と自然の新たなつながりがサステナビリティへと連なっていくためとして、以下の3つのポイントを示した。

Three Point Pledge

  1. 環境と社会へのパーパスを、ブランドプロミスや製品、顧客体験の中心に埋め込む

  2. マーケティングやコミュニケーション力、ブランドの影響力を活用して、消費者に「持続可能な生活にアクセスすること」や「意欲的でやりがいのある生活」を届ける

  3. 行動を転換するため、そして人々と私たちが共有する地球やコミュニティにプラスの影響を与えるために、協力してマーケティングの分野を変革する

この3つのポイントを踏まえて、続く9つの行動推進が提案された。

To Drive 9 Key Behaviors

ブランドの愛・ロイヤリティ・成長を推進しながら、“気候変動への対応、天然資源を守る、強靭な社会をつくる”という3つの目標からバックキャストされた9つの主要な行動推進が示されている。

<気候変動への対応>

  • もっと植物を食べよう:適度な肉の消費と再生農業を支える製品を消費しよう

  • 再生可能を選択しよう:自宅では再生可能エネルギーに切り替え、公共交通機関を利用、再生可能エネルギーで作られた製品を購入しよう

  • 耐久性を高めよう:使い捨てのアイテムを減らし、使い捨てではなく耐久性があり再利用可能な製品を購入しよう

<天然資源を守る>

  • 水と食品の無駄を減らそう:事前に食事を計画し無駄のない準備をすること、冷蔵庫のものは使い切り、生ごみはたい肥にしよう

  • 循環型になろう:可能な場合は常に、新製品よりもリサイクル製品やレンタル品、共有可能なものを買おう

  • シンプルなものを:より健康的でシンプルかつクリーンな成分の製品を購入し、生息地や生物多様性を保護しよう

<強靭な社会をつくる>

  • 女性、女子を支援しよう:女子教育、より良い家族計画につながる大義や製品を支援し、女性の起業をサポートしよう

  • 公平性と機会を拡大しよう:フェアトレード製品で、方針や大義を掲げた包括的かつ公正な製品を購入しよう

  • 声をあげよう:選挙に行こう、地域社会で自腹のボランティアをしてあなたの声を届けよう

セイコーエプソン株式会社 小川CTO

「将来実現したい世界を描き、バックキャストして技術を開発しようという考え方に変わってきている。世界の社会課題にどう立ち向かうのか、どう解決していくのかが私たちに課された課題」と、バックキャストという言葉を使って講演。

オムロン株式会社 宮田CTO

同社のバックキャストによるシステム開発事例を紹介(1960〜70年代に、オムロン株式会社の飛躍のきっかけとなった3大自動化システム)。

  • 都市部への人口集中による公共交通機関の混雑を緩和したい
    → 無人駅システム(自動改札や発券機など)

  • 自動車の普及に伴って増加する事故を減らしたい
    → 交通管制システム(全自動感応式電子信号機など)

  • お金をカードで持ち歩くキャッシュレス社会を目指したい
    → 金融システム(オンラインキャッシュディスペンサなど)

フィリップモリスジャパン合同会社 井上副社長

“煙のない社会を目指す”という同社の決意を紹介し、「いま、たばこを吸っていない方、絶対に吸い始めないでください。いまたばこを吸っている方は、ぜひ禁煙しましょう」と呼びかけた。そこからバックキャストで、「禁煙するためのベターな解決方法として、サイエンスとイノベーションから生まれた加熱式たばこに切り替えていただくことが、われわれの会社のビジョン」と語った。すごいのはこの後で、「極めて重要なポイントは、加熱式たばこの販売対象が今日、既にたばこを吸っている成人のみだ」と強調。「未成年者や、これまでにたばこを吸ったことのない消費者には決して新しい製品を訴求しない」ということで、事業継続はどのようになるのか。新たな顧客獲得に向けた製品戦略など、同社のユニークなバックキャスト手法と今後のサステナビリティ戦略は継続してウォッチしていきたい。

まとめ

会議での講演内容をいくつか紹介したが、いずれもそのバックキャストの源は世界共通の不変の真理としてあるSDGsに辿り着く。新型コロナで道を見失いかけている我々に、この先の道をつくる拠り所として、SDGs以上に明るく道を照らすものはない。ここで改めて17の不変のゴールをベースに、新型コロナで必要な変化を織り込んだ新たなブランドとしてのゴールを定め、そこからバックキャストすることでアフター・コロナの進むべき道ができるのではないだろうか。

追記

印象に残ったスピーカー

実は、筆者は今回のSB国際会議のスピーカーに招聘され、「海洋プラスチック問題への新しいアプローチ」というセッションに参加させていただきました。光栄にも、「初日の印象に残ったスピーカー」に選ばれましたが、紙面が足らず内容をご紹介できません。次回、コラム執筆要請がきましたらご紹介をさせていただきたいと思います。

日本製紙 パッケージング・コミュニケーションセンター長 金子 知生

※1 サステナブル・ブランド国際会議2020YOKOHAMA:株式会社博展とSustainable Life Media, Inc.(本社:米国・サンフランシスコ)の共催。サステナブル・ブランドをめぐるセッション、ワークショップ、ネットワーキング企画などが今回、初めて横浜で開催されました(過去3回は東京)。環境省やNPOが後援しています。当社は昨年同様ブロンズスポンサーとして参加し、パンフレット用紙に当社FSC対応銘柄を協賛しました。また日本製紙クレシアから、スコッティ3倍巻きトイレットロール等を試供品として提供しました。本会は、スライドの写真撮影がOKで、SNSへも是非投稿してほしいという公開型のスタンスで、参加者の理解・整理もしやすいユニークな会議です。筆者のプレゼンテーションも多くの方が写真を撮っていらっしゃいました。

※2 本文の内容について、筆者のメモの他に講演者の公開資料及びサステナブル・ブランドジャパン公式サイト内特集ページを参考及び一部引用させていただきました。特に沖本啓一記者の記事は詳細で大変助けられました。この場を借りて御礼申し上げます。

※3 本文の英語からの日本語訳については、グーグル翻訳によるものを筆者が日本語らしく若干手直しして記載したもので、不正確なものも多くあると思います。英語が堪能な方は日本語訳を無視してください。特に、SHOW UPのパートなど同時通訳もスルーであり、よくわかっていません。すみません。

※4 SDGsロゴについては、国連グローバル・コミュニケーション局による「持続可能な開発目標 カラーホイールを含むSDGsロゴと17のアイコンの使用ガイドライン」より、下記2項の情報目的に該当するものとして使用しました。
2. SDGsロゴ・バージョン2、SDGsカラーホイールおよび17のSDGsアイコンの使用
SDGsロゴ・バージョン2、SDGsカラーホイールおよび17のSDGsアイコンは、下記に定める条件に従い、(i)情報提供、(ii)資金調達および/または(iii)商業用途を目的に、SDGsに対する支援を表明するために使用することができる。
情報目的
情報目的での使用とは、主として例示的かつ非商業的で、資金調達を意図しない使用を指す。SDGsロゴ・バージョン2、SDGsカラーホイールおよび17のSDGsアイコンは、このような情報目的で使用でき、その際には国連による事前許可も、ライセンス契約の締結も必要とされない。